東京地方裁判所 昭和45年(ワ)4892号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件特許発明にかかる合成樹脂チューブの被嵌装置は、
(一) 包装機用投入パイプを載置すべき載置台を摺動自在に設け、
(二) 載置台の摺動線上にほぼ投入パイプの外形に相当する間隙を存してロールを対設し、
(三) 載置台とロール軸とを動力伝達機構を介して動力源に連結する
ことを構成要件とするものと認められ、右認定に反する証拠はない。ところが本件物件は、右構成要件のうち(一)および(三)を欠くから、本件特許権の権利範囲に属するものではない。すなわち、本件物件においては、案内筒(本件特許発明の「包装機用投入パイプ」に相当する。)は、機匣に固着された腕に取り付けられており、また、右腕は、動力伝達機構を介して動力源に連結されてはいないのである。
なるほど、原告主張のように、本件特許発明において、投入パイプを載置した載置台とロールとが常時一定間隔を保持していたのでは、投入パイプの一定間隔個所をロールが回転するだけで投入パイプの全長にわたつて合成樹脂チューブを密充的に被嵌させることはできず、したがつて、対向する載置台とロールとはその間隔をしだいに離してゆかねばならない関係にあるということができる。そして、この両者の間隔をしだいに離してゆく方法としては、原告主張のように、(イ)載置台だけを移動させる場合、(ロ)載置台とロールとを移動させる場合、および(ハ)ロールだけを移動させる場合の三つがある。しかし、このことから本件特許発明が右(ハ)の技術思想をも包含するものであるとは到底いえない。なぜならば、本件特許発明の特許公報の記載からは、その趣旨のことの片鱗さえうかがうことができないからである。本件特許発明においては、前認定から明らかなとおり、載置台は摺動自在であり、かつ、ロール軸は回転するように、載置台とロール軸とがともに動力伝達機構を介して動力源に連結されていることが要件である。そして、この場合、載置台の移動速度とロール軸の回転速度とは、一定の比率を保つように、動力伝達機構を設定することによつて、調節しなければ、チューブの密充的被嵌の効果を収めることができない。一方、本件物件においては、ローラー(本件特許発明の「ロール」に相当する。)だけが、動力伝達機構を介して動力源に連結され回転し、このローラーはローラーと案内筒(同図面1)およびたくしあげられたチューブとの間の摩擦力より大きい、ローラーを回転させる力により、移動できるようにされているのであつて、ローラーの回転速度と相関的に調節、移動されるべきものはなにもないのである。そして、このことがまた、本件物件が前示本件特許発明の構成要件(一)の、摺動すべき載置台を具えずして、しかも本件特許発明におけると同様に、合成樹脂チューブの案内筒に対する密充的被嵌の効果を収めしめるのである。
右のとおり、本件物件は、本件特許発明を構成すべき必須要件を欠くものであるから、本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべきである。
よつて、原告の、本件物件の製造、譲渡、譲渡のための展示が原告の特許権を侵害することを前提とする本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却する。(荒木秀一 高林克巳 元木伸)